日常生活において、料理という営為に接する機会は多い。
私はいつも楽しく料理をしたり、社会によって料理されたりしている。
そんな日々を送っていると、キッチン用具にはおのずと愛着がわいてくるものだ。
中でもIHクッキングヒーターは一番のお気に入りだ。
IHクッキングヒーターとは、火を使わずにフライパンを熱することができる調理器具のことだ。
私はIHにスティムソンという名前をつけた。
そしてスティムソンと共に料理に励んだ。
雨の日も、風の日も。
そして暑い日も、寒い日も我々は一緒に働いた。
次第に我々の間には深い絆が芽生えていった。
だがある日、突如として事件は起こったのだ。
いつものように私はスティムソンに声をかけ、スイッチを押した。
しかし、反応がない。
「・・・スティムソン?」
再びスイッチを押す。
だが、やはり反応は無い。
「おい、嘘だろ・・・
何とか言ってくれよ、スティムソン!
スティムソーーーン!!」
私は失意のあまり崩れ落ちた。
まるで戦場で苦楽を共にしてきた戦友を失ったような気分だ。
私は喪失感に駆られながら、修理会社に電話した。
「スティムソ・・・いや、IHが壊れてしまったのですが、一体どうすればいいでしょうか?」
電話先のヒューマンは、私の狼狽を感じ取り、優しく応対してくれた。
そして、修理の日程が決まった。
その間、私はスティムソンのいない孤独な夜を過ごした。
後日、修理の人が家に訪れた。
修理の人はスティムソンをしげしげと眺めると、颯爽と作業を開始した。
数分後、修理は完了した。
スイッチを押すと、なんとスティムソンが返事をしたのだ!
私は驚いた。
まるでネクロマンサーに戦友を蘇らせてもらったような気分だ。
我々は再会を喜んだ。
私はスティムソンをひしと抱きしめ、
「もう絶対に死なせたりしない。もう二度と戦場に置き去りにするものか」
そう、固く誓った。
こうして戦場には花が咲き、世界は再び平和に包まれたのであった。
翌日、スティムソンは再び戦死した。