それは、とある群馬の古い温泉街の一角。
入り組んだ通路を進んでいく。
すると、不意に一本道にたどり着く。
薄暗く、奥までスーッと続く細道。
まるで底なしの深淵に続いてそうな道だ。
そこは「出る」と噂の有名スポットである。
この前群馬に行った時、
私はそこにたどり着いてしまった。
恐ろしいあの場所へ・・・
足を踏み入れた瞬間、
空気が変わったのがわかった。
温度がぐっと下がって、冷気が流れる。
しかも悪いことに、時間は真夜中だった。
辺りはしんと静まり返り、
物音一つ聞こえない。
生き物の気配も全くない。
そう、「何か」の気配を除いて・・・
私がそれに気づいたのは、
通路の三分の一も進んだ頃だろうか。
周りに人は誰もいなかった。
なのに、後ろから、
ひたり、ひたり・・・
と何かがついて来るような、
そんな気配がした。
「まさかな、気のせいだろう」
私はそのまま歩いた。
するとやはり、
ひたり、ひたり・・・
と気配がついて来る。
そして私が止まると、
「それ」の足もピタリと止まるのだ。
私はじっとりと冷や汗をかき始めた。
これは気のせいなんかじゃない。
「それ」は確実に後ろにいる。
それもすぐ後ろだ。
だが、振り返ることなど恐ろしくてできなかった。
私は重々しい足取りで先を進む。
重圧がどんどん迫ってくる。
通路の冷気も増して、もう凍えそうだ。
だが、ふと思い立った。
このまま進み続け、
出口のエレベーターに至った時、
どうなってしまうのだろうか。
必然的に「それ」とエレベーターに
入ることになる。
だが、「それ」とエレベーターに入ることなど、
死と同義である。
そうなる前に「それ」を、
なんとかしなければならない。
もはや選択の余地は無かった。
振り返るべき時が来たのだ。
私は歩みを止めた。
すると後ろの「それ」もピタリと止まった。
そのまま全く動かない。
心拍数が上がってきた。
体中の全ての細胞が
「振り返るな!」
と告げている。
だが、もうそうするほか無いのだ。
私はとうとう意を決した。
そしてそのまま勢いよく振り返った。
そこにいたのは・・・
ぐんまちゃん。
群馬が誇るご当地公式マスコットキャラクターである。